序章 第五話 三年生追い出しパーティー 後編


 テーブルに所狭しと並んだ料理に、それぞれ思い思いに舌鼓を打つ。

「うおーっ! これってば、the・荒垣ブランド! マエストロ=Aのこだわりメインディッシュじゃねッスかっ!」
「順平君、theはザじゃなくて、ジよ。」
「突っ込みどころがちげえ。……つーか、勝手に名前付けんなって前から言ってんだろが。」

照れ隠しに、荒垣が山岸と伊織を順に睨み付ける。

「でも、また食べれるなんて! 感激です、センパイ!」
「どわっ! くっつくんじゃねぇっ!」

腕に抱きついてくる「彼女」を引き剥がそうと、荒垣がもがく。だが、力のパラメーター99の彼女の腕力は路地裏の覇者の腕力を以てしても振り解くことは出来ない。

「うん。相変わらず絶品だ、荒垣。それと皆、いつぞやの特上の寿司も取り寄せてあるからな、好きなだけ頂こうじゃないか。」

エリンギの酒蒸しを小皿にキープしながら、桐条はエンガワの握りを箸で摘む。

「あれ? 先輩、予約してたんですか?」

山岸は好物のイクラの軍艦を摘みながらそう尋ねる。

「いや、してなかったんだ。その……卒業式まで記憶を失ってたものでな。」
「へえ、よく間にゃ合いまひたね。」
「ちょっと順平、食べるか喋るかどっちかにしなさいよ!」

ウニの軍艦を口に運ぼうとして口を開けていた岳羽はそれをキャンセルしてそう窘める。桐条に言わせれば行儀の悪さは五十歩百歩だが。

「卒業式シーズンと言うこともあってな、実は予約はパンク状態だったんだ。……使ってしまったよ、"桐条の力"をな。桐条系列の寿司屋だったおかげで何とか無理を通せたが、先客への遅延保証やらで若干高くついてしまったからな。何より板前達にも少々の無理を強いた。味わって食べてくれよ、……特に伊織。」
「ちょっ、そこで俺ッチ名指しで引き合いに出すンスかっ!?」

伊織が不意討ちでの駄目出しに抗議する。

「てか美鶴先輩、良かったんですか?……ウチらの贅沢の為にお家の力使っちゃって。」

岳羽が苦笑いを浮かべる。

「何、構わないさ。我々の会は特別だ。回り回って桐条グループにとっても。それに……一度きりの贅沢さ。恐らく、後にも先にもな……神々の罰は当たるかもしれないが、天上のお父様だけはきっと赦して下さるさ。」

そう言ってフ、と桐条は微笑む。

「ああ、笑って赦してくれるだろ。他ならぬ自慢の娘だ。胸を張れ、美鶴。」
「明彦……」

真田が優しく桐条に微笑みかける。

「おー! さっすが真田センパイ!いいぞー!」

「彼女」は真田に拍手を贈る。

「ああ、旨ぇ寿司だ。他ならぬ御令嬢の晴れの日を飾る寿司握れンだ。板前も喜んでんだろ。嬉しい悲鳴、かもしんねえが。」

板垣はそう言ってコハダの握りを口に放り込む。

「でも先輩の料理も負けてないです!」

そう言って、まだまだ大皿にいっぱい残っているのにわざわざ荒垣の小皿に取り分けられた青椒牛肉絲をがばっとかすめ取る。

「そう言えば真田さん、今日はプロテインは持ってこなかったんですか?」

天田がそう尋ねる。

「おいおい、一年間も言われ続ければさすがの俺も改めるさ。」

真田が苦笑を浮かべる。いや、正確にはプロテインは準備済みだが、食卓には置いていないというだけの事。これまでの彼は食事と並行してプロテインを飲んでいたために常に食卓の一角に鎮座するその缶は最早見慣れた風景となっていたのだが。

「へえ、成長しましたね、センパイ。」

「彼」が目を丸くして真田を見る。「見直した」、分かり易く顔にそう書いてある。

「失礼な後輩だな、全く……」
「センパイの融通の利かなさはよーく知ってますよ。後一発、ってシャドウにタルンダ掛けちゃう人だもん。しかも得意げに。」
「ッ……!」

痛いところを突かれて真田は言葉に詰まる。同時に目を逸らした桐条を見て山岸は密かに笑いを堪えていた。

 その頃、ラウンジの片隅では……

「ガフ、ガフ、ハフッ……」
「荒垣さんのお手製ごはんは美味しいでありますか? コロマルさん。」
「ワン!」

自分の頭を撫でてくれるアイギスに、コロマルは顔の周りに花を散らしながら応えた。

「アウゥ……」

とても上機嫌だったコロマルは、不意に心配そうにアイギスの頬を舐めた。

「いいんですよ、コロマルさん。今は私だけ食べてませんけれど、一緒に食べてる気になって眺めているであります。……それに後で充電する時、ケーブルは静音さんが差してくれると約束してくれたであります。」
「ワンッ!」
「はい!」

良かった、と自分のことのように喜んでくれるコロマルを、アイギスは抱きしめた。

  *    *    *

 その時刻、まだ午後の九時にもならない頃。

「じゅんぺーのっ! ちょっとイイとこ見てみたいーッ!」

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