序章 第四話 三年生追い出しパーティー 前編


「なぁなぁ、こういうの、リーダーの役目じゃね?」

「桐条先輩・真田先輩卒業おめでとう」と書かれた横断幕が飾られた巌戸台分寮ラウンジ。桐条と真田の二人が上座に掛け、威風堂々と胸を張っている。

「っても俺あんまりキャラじゃないしなー……お前やってよ。」

彼はそう言って彼女に振った。

「はーい! それではリーダーとして、月光館学園高校2年F組夢弾静音、脱ぎまーす!」
「バッ……!? オメーッ!!」

伊織が「ウホッ!?」とか言って反応しようとする前に、大慌てで立ち上がった荒垣がブレザーを脱ごうとする彼女の肩を押さえつけて座らせてしまった。それが賑やかしのジョークだと気付くまでに実に五秒。

「……クソッ!」

荒垣は顔を真っ赤にして、末席にどかっと腰を下ろした。呆気に取られる一同の中、真っ先に「うぷぷっ」と吹き出したのは岳羽ゆかり。そしてラウンジは笑いの渦に包まれる。

「……まぁそんなこんなでね、先輩方お二人が、ついにご卒業なワケですよ! お二人には、言葉では言い尽くせない程お世話になりました!」

彼女は真田に向き直る。

「いつもクールでボクシング王者の真田先輩、とってもカッコ良かったです! 真田先輩は、月高の、私ら特別課外活動部のスーパースターです!」
「スーパースターか、悪くないな、ありがとう。」

真田が少し照れて赤くなりながらも、笑顔で応じる。ウンウンと岳羽も山岸も笑顔で頷く。

 ボクサーチャンプ真田に憧れる天田と、お調子者の伊織ですらも笑顔にうっすらと涙を浮かべる。

 荒垣も、その瞳で優しく祝福をする。真田の瞳もきっとそれに応えているのだろう。瞳で何と語り合っているか、それは誰にも、本人同士にしか分からないものであり、しかして同時にきっと、誰にでも分かるような二面性を矛盾せずに持つ語らいなのだ。

「そして美鶴先輩。月高の生徒会長として、部長として、最早既に王者の風格です! カッコ良過ぎです! 美鶴先輩は、私、ゆかり、風花っ、……アイギスっ、二年生っガールズのっ、……おねえさっ……」

そこまで言って、彼女の目からぼろっと涙が零れた。

「……ふぇ、み゙・つ・る゙・せん゙ぱ〜〜い゙……」
「お、おいおい……」
「……うわああああああーーーーーーん!!」

彼女は大声を上げて泣き出してしまった。

「ちょ、ちょっと、子供かっつーの!」

岳羽が立ち上がって桐条に目配せをする。桐条も立ち上がり、彼女に歩み寄ると彼女の瞼に白いハンカチをそっと当て、抱き締めポンポンと背を優しく叩き、宥める。

「……馬鹿だな、泣く奴が、……あるかっ。本当に……手の掛かるっ…………妹っ……っ……」

彼女を抱き締めたまま、桐条も肩を振るわせていた。

「……ふえぇぇ〜ん……桐条先輩ぃぃ〜〜……」
「ちょっ、風花まで!? 三人共バカじゃないの!?」

そう言いながら岳羽はその場に座り、俯いた。その膝に、ポツポツと涙が落ちる。

「……ってか……バカじゃ……ないの……」
「……へへっ、二回言うなっつの。」

そう言いつつ、伊織も鼻をすすった。見ると真田も目に涙を溜め、彼女を抱きしめる桐条に微笑みを向けていた。

 荒垣は不自然な程にニット帽を深く被り、幾本も涙の筋が這う頬を微笑ましながらしゃくり上げる天田の頭を優しくポンポンと撫でていた。天田がその手を振り払っても、何度も、優しく撫でていた。

 アイギスはその場から一歩も動かず、表情も全く動かさず、ただ優しい笑顔を浮かべたまま、ただひたすら涙を流していた。彼女は知っていた。自分が不用意に動けば、自分の間接の可動域からこの場の空気に相応しくないモーターの作動音が漏れてしまう事を。彼らにとってそれは既に慣れた日常の音の一つに過ぎないだろう。違和感なんて感じないかもしれない。少なくとも皆はそう言ってくれる。それは分かっていた。それでも、アイギスは微動だにしなかった。それは苦でもなんでもないことだけれども。それでも機械であるはずのアイギスの瞳から流れ出る涙は止まらなかった。

 その涙を、コロマルは優しく舐めていた。そんな時、彼は岳羽の腕を優しく掴んで立ち上がらせる。

「……何よ。」
「行っといで。」

そう言って、優しく背中を押した。岳羽は躊躇いがちに一度彼を振り向くと、向き直って桐条に駆け寄り、「彼女」同様に抱きついた。それを見た山岸も岳羽に続く。

「ほら、アイギスも。」
「静音さん……」

アイギスも涙をいっぱい溜めた笑顔を一度彼に向けると、桐条の方へ駆けだした。

「……全くっ……困った妹……たちっ……」

女子達は五人抱き合って、ひたすらに泣いていた。周囲でも男子達が思い思いに滲ませる。

 そんな中、彼は足音を立てないように階段を上る。ラウンジの面々から顔が見えなくなる位置
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