序章 第二話 岳羽さんと荒垣さんは屋上で……

「なんか皆の様子、まるで非適正者の影時間の記憶補正みたい……」
「やっぱオメーもそう思うか。」

特別課外活動部の面々には、「彼ら」も含めて先に帰ってもらった。とは言え、「彼ら」はそれぞれ校門付近で待っててくれるだろうが。唯二人正気な岳羽と荒垣二人だけで話せれば五分で済む用事だ。

「……話しってのぁ、提案だ。」
「提案……ですか?」

岳羽は真面目な表情で荒垣に向かい合う。

 思えば、一対一で荒垣と相談事など始めてだった。まあ、この状況を理解出来ている者がお互いしか居ないのだから至極当然ではあるものの。

「岳羽、出来るだけアイツに付いてろ。俺もアイツに付いとく。……っと、ったく……同姓同名ってな思った以上に面倒臭ぇな……」

予想もしなかった部分の不都合具合に思わず舌打ちをする。まあそんな事も「この異常」そのものに比べればあまりにも些細な事だが。

「彼らのどっちかがニセモノかもしれないってことですか?例えば……正体はシャドウ、……的なもの? とか。」
「そりゃ無ぇと思うがな……勘でしかねぇが。仮にニセモンだとして、山岸の前に堂々と出るようなニセモン、どっち道俺らの手にゃ負えねぇよ。」
「そですね。現状、なるようにしか……ってとこですかね。」

荒垣は屋上の手すりから校門を眺める。

 ちょうど特別課外活動部のメンバー達が学校を出て行く所で、「彼ら」がメンバーと手を振りつつ別れ、校門に留まるところが見えた。「彼女」が校門からこちらに向かって飛び跳ねながら大きく手を振り、「彼」が、視線をこちらに向けたままポケットに手を突っ込みながらその体重を校門に預ける場面が見える。

「……一番でけえ異常は、今んとこアイツ等二人が一緒に居るってことだ。なんか起こるとすりゃそっからだろ。俺かおめぇが近くに居りゃすぐ動けんだろ。そん時ゃお互いソッコー連絡だ。」
「オッケーです。ピッタリくっついてましょうね、お互いに。」

荒垣の横に並んでにひひ、と笑いつつ「ピッタリ」を強調すると、荒垣は僅かに頬を染め岳羽を睨み付けた。そんな言い方をすれば自分自身だって恥ずかしいが、荒垣に対しては自分の2倍も3倍もダメージを与えれるであろう事を知っていてからかってみたくなったのだ。

 それは自分も仲間の一人として荒垣の容態を人並みに心配し、そして帰ってきてくれた喜びがそうじゃれつかせたのだ。

「……オメーにも、二通り有ンだろ。アイツらに出会ってからの記憶。」
「……そうです。同じ時、同じ場所に行って、同じ内容の会話をして、でもそれぞれとしか交わしてない会話の記憶とか。」

そして、「彼」と居た方の記憶では、荒垣は死亡している。自分の記憶は二通り存在しているものの、荒垣のそれは、十月以降はぷっつりと途切れて片方しか無いのだろうか。「死んだ記憶」があるのだろうか。それって、どんな感じがするんだろう。

 そんな哀しげな表情を浮かべた岳羽に気付き、荒垣が話題を戻す。

「……まぁ、あとは今夜注意するか。もしかすっと、影時間が来るかもしんねぇしな。」
「そうですね。なんだったら零時直前に作戦室にでも呼び出しときますか?」
「んや、今んとこ不確定だかんな、そこまでするこた無ぇだろ。杞憂に終わりゃそれがいい。」

「それでいい」ではなく「それがいい」。微妙なニュアンスの違いだが、岳羽は思わず荒垣を見る。

「あー、提案ってなこっからだ。」

荒垣は校門の「彼ら」に視線を向けたままそう言う。

「とりあえず、気ィだけはつけとく。この"異常"の解決策は、俺らがやれる範囲で探す。だが……もし俺らで解決出来るモンでもねぇ、結局原因も分からねぇ、で、だったらこの異常に慣れてくしかねぇ、って事になりゃ、そん時ぁ……」

荒垣の言葉が止まる。

「……その時は?先輩。」
「……そん時ゃそん時で、この際楽しまねぇか?」

ボソッと低い小声で、しかし岳羽ははっきりと聞き取った。

「一緒に居れない筈のアイツらが、二人とも居る生活。……良いじゃねぇか。」
「……私も、そう思います。」

岳羽も校門の二人に視線を移す。

「私もあの二人、大好きです。一緒に居て、すごく楽しい。どっちもかけがえの無い仲間。ウチら誰一人欠けたって、きっと心に傷を負っちゃいます。」

岳羽は、もう一度荒垣顔を向ける。

「それは、先輩も一緒なんですよ?」

荒垣はチッと舌打ちして、ニット帽を目深にかぶり直す。決して襟の高くないコートに首をすくめるようにして、表情を隠す。

「ああ、いいモンじゃねぇか。悪くねぇよな。」

きっと、コートで半分隠れた顔には照れ笑いが隠れてるに違いない、と岳羽は内心ほっこりと微笑む。そこで、校門の二人を眺めていた荒垣が、体ごと岳羽に向き直った。

「……だがもし、これが俺らで解決でき
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