三章 第二十三話 再発


 昼休みの、月光館学園高等部職員室。夢弾は山岸風花の件を、鳥海と一緒に江古田に聞き取りに来た。目的の江古田の席には先客が居るのが見える。桐条、岳羽、伊織に、見知らぬ女子生徒が一人。
「…桐条さんも来たのね。」
「ええ、先生方と同じです。」
江古田の席に歩み寄りながら鳥海は桐条とそう言葉を交わす。
「江古田先生、事情を伺いに参りました。山岸風花…という生徒について。」
江古田は自分の席に掛けたまま気怠そうに湯飲みの茶を握り、見上げる目線で振り返る。
「違うのっ!違うのよ…!」
その必死な言葉は、桐条・岳羽・伊織以外のもう一人の女子生徒から発せられたものだ。茶髪に色黒メイク…ブラウン管の中以外で、というかまさか校内でお目にかかる機会があろうとは。そしてやはり校内ではそのまんま目立つ特徴だ。倫理で回るクラスの中で見かけることもあったが、どうやら2−Eだったらしい。
「こんな…こんな事になるなんて、思わなかった…っ!」
茶髪の女子生徒は怯えたように自責を繰り返す。
「風花っ…!」
「あれ…あなた、…確か前に…」
岳羽は彼女の顔に見覚えがあったらしい。この流れだとここ数日"山岸"に対してアンテナを張っていた一同にとっては彼女と山岸風花の関係に自ずと予想が付くのも至極自然な流れだ。だがこうしていじめっ子と思われる一人がこの場に居るということは、その場でペルソナに覚醒して暴走に巻き込んだ、という線が薄れた事を意味する。少なくとも茶髪のこの生徒は巻き込まれていないワケだから。だがそれは力の暴走という悪い予想を遠ざけると同時に、タルタロス内でのシャドウに対する自衛手段を奪っての生残性低下、という新たな悪い予想を呼ぶ諸刃の剣でもある。
「山岸を…どうしたんだ?」
それは意図したものか否か、桐条が少しだけ威圧的な視線で女子生徒の顔を覗き込む。
「おいおい、桐条君、そんな言い方は無いだろう?森山も困ってるじゃないかね。」
江古田がヘラヘラとした笑顔を浮かべながら桐条を宥める。
「なぁ、森山。話したくなければいいんだぞ?お前が余計なことを言って山岸が変に思われてもいかんよ。」
今度は混乱する森山を宥めすかすようにそのままヘラヘラとした笑顔を寄せる。年功序列や守りに入って得た、それなりの地位の者特有の老猾な笑顔に一同は吐き気にも似た不快感を覚える。
「風花ってさ…ちょっとつっついただけで、いつも世界の終わりみたいな顔すんだ。すぐ分かったよ…コイツ優等生のクセに、根っこアタシらと同じだって。どこ踏んづけときゃ立てないかなんて…アタシには丸分かりだった。」
森山、と呼ばれた生徒は江古田にもお構いなしに語り始める。
「…だから!あの日もほんの遊びのつもりだったの!5月29日、風花をロッカーに閉じ込めて一旦カラオケ行ったんだ。そんで、夕方に一旦出そうと思って教室帰ろうとしたら夢弾先生が二階から下りてきて…」
「ああ、物音に気付いてロッカーから引っ張り出した。」
「こんな事になるんだったら無理矢理にでも職員室に連れてくんだったな」という言葉が喉元まで出掛かったが、どうにか押し止める。言葉に出してしまえばつい責める口調になってしまうのは免れない。そうなってしまえば折角の自供の流れを止めてしまいかねない。
「慌てて教室戻ったら、風花一人で泣いてた。チクられたかもしれない、って思った。余計なこと言うな、ってちょい脅してやろうと思って、風花を体育館に連れてって…外から鍵かけて…」
「ちょっ、おまっ、閉じ込めたっつー事かよ!?」
陰険な手口に伊織が吠える。
「夜中んなって、自殺とかされるとマズいからって、マキが一人で学校行ったんだ…でも、マキ帰って来なくて、翌朝…っ!」
「校門で倒れてるのが見つかった、か…」
自分の知識に繋がる事実にはぁと溜息を吐く岳羽。
「その間に風花を出さなきゃって体育館行ったら、まだ鍵が掛かったまんまで!ヤバイってすぐ開けたんだけど、そしたら風花消えちゃってて…!アタシらみんなビビって、次の晩から夜な夜なあの子を探しに行ったの…でもその度、行った子が帰って来なくて…みんな次々、マキみたいに…!」
「なるほどな…」
桐条は夢弾の仮説から大きく更新された情報を吟味する。
「…ところで江古田先生。連日の山岸風花の欠席を、先生は"病欠"と届けていらっしゃる。だが実際は行方不明で、先生はそれをご存知だった筈だ。…どういうおつもりです?」
桐条は鋭い視線で江古田をねめ付ける。はっきりと現れた、強い批難の色。
「何を言ってる。生徒の為にした事だよ。みんな色々、将来の為に都合があるんだ。子供の君らには分からんだろうがね。」
明らかに生徒を子供と侮る、下卑た笑顔。そう誰もが感じた。
「桐条。」
夢弾は桐条を制する。確かにこの生徒は教員の一人くらい叩き潰すだけの爆弾は
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