三章 第二十二話 放置


 寮のラウンジ。病院の検査から帰って来た真田は晴れやかな顔をしている。
「帰りましたか、先生。」
先日パチンコで大勝ちしたらしく、羽振りの良くなった鳥海の日曜日を利用した買い出しの荷物持ち要員として大量の袋を抱えて夢弾は寮に入ってきたところだった。
「ああ、ただいま。真田、病院で検査を受けてきたそうだが、その分だと…」
「ホント、この上無くスッキリした顔ね。そうね…三日続いた便秘から解放された、的な。」
「べっ…!」
夢弾の奥から続いてきた鳥海の余りにも品の無い例えに岳羽が目を丸くして絶句する。
「ま、まあ真田先輩、全快したそうですね!」
「おめでとッス!」
岳羽と伊織が真田を祝福する。ボクサーチャンプの肩書きを持つ"皇帝"の帰還はこの上なく大きい。それに二人はこれまでに積み重ねた戦いの日々で、自分たちが着実に腕を上げている実感があった。その成果を最も見てほしい人物の一人が、この真田なのだ。
「復帰メニューが山積みだ。丸一ヶ月サボってたからな。」
「大丈夫ですか?急に無理するとまた折れちゃいません?」
「真田なら大丈夫だろ。基礎筋肉がしっかりしていれば痛めた骨格は意外とカバー出来る物さ。」
夢弾は真田が痛めていたとされる肋骨付近を指で差しながら自分の肩を回して見せる。
「そうだとも、鍛え方が違う。それに、そうも言ってられない。…新たなペルソナ使いも見つかったしな。」
「おおっ!新戦力って事スか!…もしかして、女子…なんて事は!?」
伊織が期待に緩んだ瞳で周囲に花を散らす。
「女子だ。ウチの高等部二年のな。"山岸風花"…知らないか?」
「山岸…?ああ、確かE組の…なんか体が弱いとかで、学校じゃあんま見ないような…」
岳羽は宙を仰ぎ見るようにして、自らの中の山岸風花の僅かな情報を引き出そうとする。が、その情報はあまりにも希薄で実像を結ぶ事は無い。
「俺達の居た病院へ来てたらしい。それで適性が見つかった。…しかし、素養があっても体がそれじゃ、戦いは無理かもしれないな。」
真田は項垂れる。
「せっかく召喚器も用意したんだがな…」
落胆しながら、未だ持ち主の定まらないトランクを見つめる。
「ええっ、もう諦めちゃうんスか!?ちっと早かねッスか?せっかくオレが、手取り足取り個人レッスンとか…」
S.E.E.Sに入隊して以降桐条に岳羽と、いわゆる学園内の綺麗どころと同居(?)する機会に恵まれたはいいが、さすがにその桐条はあらゆる面でレベルが異なり、岳羽とは相性がすこぶる悪く、と目の毒に耐えるような位置に居た彼だ。女子戦力の加入に期待を寄せるのは健全な男子高校生としては極めて自然…なのかもしれない。
「………」
そんな伊織を、何とも言えない表情で見つめる岳羽。確かに、伊織の言い回しは彼の持つキャラクターと相まって非常にイヤらしい響きは感じさせたが。
「ナニ?その可愛そうな、手負いの小動物でも見るような目は。」
ふと伊織が周囲を見渡すと、その場に居合わせた鳥海に会話に加わっていなかった桐条、さらに真田までもが岳羽と同じ眼差しで伊織を見つめていた。
「…見んなよ…」
夢弾はそんな伊織を、吊り上がってしまいそうになる頬を手で押さえ付けるように覆いながら笑いを堪えて見ていた。明らかに目元が笑っている…
「…オレを見んなよ…」
場に一人も味方が居ない事を悟った伊織はがっくりと項垂れる。
「E組の山岸さん、か。」
ふと鳥海がポツリと呟く。
「あれ、センセー知ってンスか?」
椅子に座って項垂れていた伊織は鳥海を見上げる。
「あ、鳥海先生だったら現国枠で二年クラス制覇で回ってるから知ってるかも!」
「んー、ここで役立ちそうな情報とは言えないケド。」
と鳥海は先程岳羽が見せたような、宙を仰ぎ見る仕草を見せる。
「一年生の頃の成績を見るに優秀なコよ。全科目総合で見てもかなりの上位保持者ね。」
「成績上位者か…小田桐辺りに聞いてみたら知ってるかもしれないな。」
桐条は不登校気味らしい山岸についての情報を少しでも多く得るために、繋がり得るあらゆる人脈を探ろうと思っていた。だが、小田桐程の堅物の興味をどれだけ引いているかは山岸本人の"日頃"に全てが掛かっており、それが鳥海の知る山岸の情報量を上回っているか、と問えばその望みは極めて薄い。
「うぇっ…結局別世界の住人かよ…いやいやっ、オレは諦めねーぞっ!」
伊織は意気込む。彼にとっては人生の内稀に巡ってくる大きなチャンスの一つ…らしい。
「でも、去年の様子を見るに…大人しそうなコではあったケド、体が弱かった様子は無いわね。休みがちになったのは今年に入ってからよ。試験終了後のここ九日間程はずっと休んだっきりね。」
「それでは、今年に入ってから体を壊した、ということでしょうか。」
病院から取り寄せたらしい山岸風花の検査データ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35