二章 第二十話 忍法帖


 巌戸台分寮四階作戦室…先日ペルソナの覚醒を確認された鳥海は、その説明の為に間に夢弾を通して放課後にこの場へと招かれていた。理事長幾月と寮監夢弾、それに寮生も全員この場に集まっていた。賓席に掛ける鳥海は心持ち得意げにも見える物怖じしない表情だった。
「ようこそ鳥海先生、今回は災難だったね。体の方にも異常は無いようで安心したよ。」
「本日はお呼び立てして申し訳ない。楽にして頂いて結構です。」
戦力の増強を図り鳥海を取り込もうという幾月と桐条の二人。
「あっらあ、かえって気を遣わせちゃったようでぇ。それじゃ、遠慮無くー。」
幾月と桐条、教師生徒を問わず大抵の者が身構えてしまう二人を前に、何の臆面も無く振る舞う鳥海。
「すっげ、あの二人を前にあの度胸…やっぱホンモンだわ鳥海センセ…」
呆気に取られたような表情で、伊織は真田と共に成り行きを眺めている。単純に新たな仲間を歓迎しよう、という気持ちで。それとは対照的に岳羽はいまいち乗り切れないでいた。桐条グループの闇…無論今の段階でそれをはっきりと認識しているわけではなかったが、そういったものに一人ずつ取り込まれていくような、そんな感覚。父の死因を探る、という動機を抱える自分はともかく、明らかに無関係な鳥海が巻き込まれていく不運。そこで岳羽は、隣に掛けている夢弾を見上げる。先日のぼやきや、夢弾自身がこのS.E.E.S加入の際に主張した「高校生を戦わせたくない」という言葉から察するに、そう若くはなくとも女性である鳥海の加入を最も喜んでいないのは恐らくこの男だ。見た感じでは、ただ涼しい顔をしているが。
「さて、大まかな説明は夢弾君から受けたそうだね。」
「ええ、何でも私、"ペルソナ使い"なんだそうで。」
笑顔で会話する幾月と鳥海。だがその実、朗らかな笑顔の裏で双方一体何を考えているのか誰にも想像は出来ない二人ともが"そういう類"の笑顔なのだ。
「狐と狸の化かし合い、ってカンジしね?」
「言ってやろ。」
「…カンベン。」
伊織と岳羽はそんな内緒話をしていた。
「それは話が早くて助かるよ。夢弾君、ご苦労様。」
「…理事長のお話はまどろっこしいですからね。」
「ハハッ、相変わらずの毒舌だ。」
夢弾の皮肉は、相変わらず届かない。
「猟師の銃弾を華麗に躱す狸…ありゃ完全に化かされてんな。」
「ホント、まんまと術中ってカンジ。」
「…聞こえてるぞ、二人とも…」
夢弾の力ない囁きに、岳羽と伊織は顔を見合わせ声を殺して笑った。
「さて、それでは本題だ。我々は"特別課外活動部"。部長は桐条美鶴君。名誉顧問の僕と、正顧問の夢弾君によって運営される、シャドウと戦う為の選ばれた集団なのさ。」
間髪を容れずに、桐条がテーブルの上のトランクを開く。夢弾の入隊の際にもそうして見せたように。
「鳥海先生専用の召喚器も用意しております。貴女の体質や霊的個人差にも合わせて微調整は済ませてあります。どうか力をお貸し頂きたい。」
トランクの中で鈍く輝く細かな調整の施された銃や既に用意の済んだ寮の部屋はつまり拒否権は与えないという意味だ。鳥海は開かれたトランクの召喚器を眺めていたが、幾月へと視線を向ける。
「夢弾先生からお話を伺って、ここへは既に答えを決めて来ました。ですが、その前に質問が御座いますの。」
「ん?何だい?何なりと聞いてくれたまえ。」
幾月は涼しげに微笑む。
「お手当は、頂けますの?」
「…は?」
桐条は呆気に取られたリアクションを見せる。
「…ハハッ!真っ先に金の話とは、これはいい!」
夢弾はクックッと喉の奥で笑った。そんな彼に思わず注目が集まる。
「確かにな、どうせ拒否権は無く命を懸けて戦わされるんだ。せめて思うさまふんだくって差し上げるといい。」
「夢弾先生、金の問題など…!」
「いいんだ、明彦。」
思わず立ち上がる真田を桐条が制する。
「金で動いて下さるというのなら傭兵に近い。ある種最初から最も信頼できる仲間かもしれない。」
「傭兵って…どこの国の発想スか…」
若干スケールのずれた話題に伊織が目を丸くする。
「まあ、手当の問題なら心配は要らないよ。シャドウ討伐に加わってもらえるのならエルゴ研にとっても必要経費だからね、副顧問として時間外手当が付けれるだろう。それに副寮監としてここに住んでもらえるならば寮監手当も出るしね。その内実はいずれもが明記出来ない"危険手当"だ。金額的に見れば破格の待遇だと思うよ。」
「乗った。これからよろしくお願いしますわ。」
そう言うと鳥海はトランクを取り、銃を握った。スーツのジャケットの内側にホルスターを装着する位置を確かめる。
「ハア…大人ってホント生臭い…」
岳羽は呆れたように溜息を吐く。
「…良かったんですか、夢弾先生。本当は戦いに参加して欲しくはなかったんでしょ?」
てっきり
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