序章 第一話 約束の日

「荒垣先輩!?」

岳羽は、驚愕の声を上げた。

「……おう」

ひどく驚いたし、疑問の波とて怒濤の如く押し寄せる。何よりも、歓喜の叫びを上げたい程の喜びをも感じた。ついぞ先程まで岳羽にとって、荒垣真次郎とは、凶弾に倒れたまま五ヶ月間も意識を失ったままの悲劇の人だった。

 でも悪いがそれよりも今は。今だけは。約束の場所……校舎の屋上へといの一番に駆けつける事の方が優先だった。

 今日は桐条と真田の晴れの舞台、卒業式。

 桐条による卒業生代表答辞、それがスイッチであった。

 思い出した。彼と共にした戦いの日々を。喜び、憤り、悲しみ、恐怖、挫折、憎悪、感動、愛情……あの日々を。

 自分のあり得なさに腹が立って仕方が無かった。

 確かに忘れるべくあったのだろう。その証拠に他の誰もが自分と同じく、それを忘れてあれからの日々を過ごしていたのだから。

 それでも、自分だけは忘れてしまってはいけなかった。

 あの戦いの日々を忘れてしまった自分と、彼が一体どんな気持ちで過ごしていたのか。それを思うと自分を激しく責めずには居られない。こんな最低の自分に出来ることは……せめて、彼の元にいの一番に駆けつけることだけだった。

「荒垣先輩っ……そんな走ってっ……大丈夫なんですかぁっ……!?」

岳羽は率直に心配になった。何せ今自分が階段を駆け上がってるスピードと言ったら、尋常なものではない筈だから。そんな自分にピタリと並んで、銃で撃たれてついぞ先日まで意識不明の重体だった荒垣と争って我先にと階段を全力で駆け上がっているのだから。

「っかやろっ……しんどくて仕方無ぇよっ……だが生憎、こちとらもそれどころじゃ無ぇんだっ……!」

絞り出すような声に、彼の必死さが如実に現れていた。

 岳羽はふと疑問になる。荒垣は、病み上がりの体をそこまで押して駆けつけねばならない程に彼と親しかったのか?と。

 しかしそんな余計な事を考えるわけにはいかなかった。病み上がりの筈の荒垣の全力疾走は、岳羽のそれのスピードと完全に拮抗していて、ふとしたことで抜かれてしまいそうだった。何が何でも、彼の元へ駆けつけるのは自分が先でなければならなかったのだから。

 重い鉄製の防火扉を開いた時、差し込む日差しの向こうで、あいつはアイギスの膝枕で微睡んでいた。岳羽は、荒垣は駆け寄る。アイギスは、フ、と優しく微笑むと席を外した。

 だが……岳羽も荒垣も、まるで予想だにしていなかったその情景に驚愕し、立ち尽くす。

「なんで、あんたが……」
「なんで、オメーが……」

岳羽は、荒垣は、そう問いかける。

 横分けの長めの前髪で片目を覆い、ブルーのイヤホンを肩から下げた、岳羽が求めて駆けつけた、気持ち碧眼の少年。

 癖っ気のある髪をヘアピンで後ろで束ね、赤いイヤホンを肩から下げた、荒垣が求めて駆けつけた、気持ち紅眼の少女。

 そんな二人は並んで立っている。先ほどまで、アイギスの両一対の膝を枕に、それぞれ微睡んでいたのだ。二人の視線に岳羽と荒垣は絶句して立ち尽くした。

 そんな折、バンと乱暴な音を立てて扉を開き、最初に躍り込んできたのは真田だった。

「なっ……シンジ!?」

すぐ後ろから、特別課外活動部のメンバーも続く。一年間共に戦い抜いた、掛け替えの無い仲間たち。

「お前、病院抜け出して来たのか? 馬鹿な事を!」
「アキ、黙れ。」
「なっ……!?」

真田は荒垣から面と向かってそう制され言葉を失う。いつものように自分の小言に対して拒絶の反応を返す時とは様子がまるで違っていたから。幼い頃からの相棒は、そう滅多なことでこうも取り乱すことは無い。

「ねぇ、どうしてあなた達が一緒にいるワケ?」

岳羽が二人に問う。

「おーお、ゆかりッチ〜、まさか"その二人"にまで妬いちゃうワケ〜?」
「黙ってなさいよ! ホントのバカなワケ!?」

伊織は冷や汗を浮かべつつごくりと生唾を飲んだ。

「ちょっ……ブチ切れ侍どころかブチ切れ将軍の域じゃね……?」
「順平君、女の子なんだから、将軍じゃなくてブチ切れ御前でしょ?」
「風花さん、ツッコミ所ズレてますよ。」

荒垣と岳羽の剣幕に気圧される真田と伊織、いやにほのぼのとした山岸に天田。そういった面々に、岳羽と荒垣の驚愕の眼差しが向けられる。

「ゆかりも荒垣も、どうしたと言うんだ、せっかくの"約束の日"に。」

桐条が穏やかな微笑みを浮かべてそう問い掛ける。

「何言ってやがる! おかしいだろが! こうやってこいつらが揃って居んのは!」
「おかしい、とは? どういうことでありますか?」

少し離れた位置に居たアイギスが戻ってきてそう問い掛ける。

「ちょっ、どうって……こう二人並んで立ってるのが正常だっての?」
「それのどこが異常な
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