二章 第十七話 モノレールにも乗れ〜る


 夢弾は悩んでいた。タルタロスの探索を始めるに当たって…定期的な備品の準備が必要だった。装備品の類は自分の寮への到着と同時に送りつけられてきた物をそのまま扱えたので良かった。むしろポロニアンモール、辰巳東交番の黒沢巡査には悪いが、彼が都合してくれるそれらよりも火力や付加効果などのあらゆる面から見てもずっと性能が良いものばかりだ。その素材が果たしてどんな配合の合金から出来ているのかは知らないが、ペルソナ使いが感じられる魔力の守護のようなものを纏い、劣化を知らずメンテナンスの必要も殆ど無い。

 問題は消耗品だ。探索行動にはさすがに生傷が絶えない。夢弾一人だったら現在遭遇するシャドウの攻撃など完全に見切る事が出来るのだが伊織や岳羽はそうはいかない。彼ら自身の負傷以上に彼らの盾になっての夢弾の負傷が最も多い。負傷の回復は魔法で間に合うことも多くそれは構わないのだが、これから先の戦闘で誰一人命を落とさずに済むような巧みな戦い方に長けた戦士を育てる為の訓練方法を考えると、ありとあらゆる場面を想定して臨機応変に立ち回る訓練が必要になると考える。その一つとして岳羽と伊織にも回復行動の練習もさせている。その場合イオの使い手岳羽にはディアやメパトラがあるからいいものの、伊織にもいざという時の為に回復薬の取り扱いにも慣れてもらう必要がある。これは正直やらせてみて正解だった。たとえばメディカルパウダーで言えば文字通りの粉末状、風に舞ったり傷口に巧くかからなかったりする事もあったのだ。もしも慌ただしい戦闘中に失敗したりすればとんでもない事になる。そして夢弾と岳羽を差し置いて伊織が回復行動を求められるような「いざという時」なんて、どう考えても状況的にかなりギリギリな筈だ。特にこのタルタロスでは何が起きるか分からない。月齢や外界の世情に天候など色々な要素の影響を受けてタルタロスの内部構造が不安定な日というものがある。そういう日に階段を昇ると三人一緒に昇った筈が上の階に辿り着く頃にはいつの間にかバラバラに分断されている事だってあるのだ。そういう時の為にせめて淀み無く使えるようになっておかないと伊織自身が危ない。

 それらの補充に出る際、まず夜間の買い出し。寮監であるはずの自分が夜間に寮を離れることなどあってはならない。その辺の制限も幾月の公的な許可はもちろん下りている。だがそれでも夜間に月高の生徒に目撃されるのもよろしくないだろうし、何よりも夢弾の融通の利かない性格上そこを良しとすることがどうしても出来ないで居たのだ。

 それなら夕方。つまり放課後は、というとこれこそ夢弾独自のこだわりだが、自分が真っ先に寮に帰り着いて玄関の鍵を開けておき、帰って来た寮生達に「おかえり」と声を掛けること。これだけは出来れば日常の風景にしたい、と夢弾は考えていた。元来親元を離れた高校生の寮住まいなどホームシックにかかり易いものだ。特に岳羽の身の上…父親を失い母とも疎遠。そして真田は孤児院出身、という話を聞いてからは夢弾のその思いはより一層強くなった。彼らはそういった孤独は乗り越え、或いは今現在も戦い続けながら生活しているだろう。安易に「寮を家と思え、自分達を家族と思え」のような事は言わない。だが言わない分せめて、明言はしない環境をそっと整え用意だけはしておきたかったのだ。両親がまだ生きていた頃、極自然に掛けられた「おかえり」は根拠も無く夢弾の神経を逆撫でするひどく鬱陶しいものだった。だがそれが唐突に失われたあの日。事故の保障として桐条グループから宛がわれたアパートは当然ながら帰り着いた夢弾を無言で迎え入れる。望んだ筈の独り。叶ったはずの願いですらあった静寂があんなにも夢弾の心を締め付けたのだ。彼らがあれを味わうのはもっと先でいい、夢弾はそう思うのだ。だが、それはあくまでも夢弾一人の勝手で自己満足な精神論。誰も望みはしないし喜びもしない。その為に必要な備品の買出しに支障が出るというのであれば、夜間外出を忌避する職業倫理のような事情に比べればこちらの事情は個人的だ。折り合いを付けるべきはこちらの筈なのだが…

 そこで、現状。夢弾は二回階段前のソファーに腰掛けて、自分に呆れて深い溜息を吐いた。
「お待たせッス、センセー。」
ご機嫌で伊織が両手に手提げ袋…エコバッグを提げて階段を上ってきた。
「おかえり、いつも済まないな。」
「いえいえ、お安いご用ッスよ。」
伊織は手提げ袋をテーブルに置く。
「お求めの、メディカルパウダーとメパトラジェム、地返しの玉を20個ずつッス。」
「ああ、助かるよ。」
コト、と音を立てて伊織は夢弾の前に缶コーヒーを置く。何のつもりかと見上げてみれば。
「お土産。いつもお駄賃もらってますんで。」
伊織がにっこりと笑いかける。
「駄賃だなんて…高校生をタダ
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